PCを閉じ、ホテルの硬いベッドで一息つく。天井を見上げれば、無機質な照明。このままコンビニ飯で済ませるには、今日の仕事は少し重すぎた。上着を掴み、夜の八丁堀へ出る。ビルが並ぶ街角、控えめな看板に誘われるまま、階段を上がった。
「いらっしゃいませ」。落ち着いた声が、熱を持った頭を静めてくれる。カウンターの端。木の手触りが心地よい。
まずは、一番出汁が椀で運ばれてきた。湯気と共に、昆布と鰹の香りが鼻腔をくすぐる。一口。胃の腑に落ちる温もりが、張り詰めていた何かを解かしていく。
突き出しのもう一品、炊きたての銀シャリ。米の一粒一粒が立っている。噛みしめれば、甘みが静かに広がる。この店を選んだ自分を、少しだけ褒めたくなった。
お造りの盛り合わせは、瀬戸内の恵みが皿に並ぶ。身の締まった白身を、広島の地酒で流し込む。酒は、料理の輪郭を際立たせ、余韻を深くする。
穴子の天ぷら。薄衣の中で、穴子の身がふっくらと踊る。塩を少し。素材の力が、ダイレクトに伝わってくる。
時計の針は21時を回っている。
店内には、同じように独りの時間を愉しむ客が数人。干渉しすぎない、だが温かな空気。
六千円を少し超えた。出張の経費では落ちないが、自分のための夜にはこれくらいの重さがちょうどいい。
店を出ると、八丁堀の風が少しだけ優しく感じられた。明日も、また歩けそうだ。
| アクセス | 八丁堀駅から徒歩3分 |
|---|---|
| 営業時間 | 18:00~23:00 (L.O. 22:30) |
| 定休日 | 日曜日・祝日 |
| 一人予算 | 約6,000円 |