21時。流川の喧騒を背に、銀山町の静かな一画へ逃げ込む。今夜はまだ、ホテルに帰りたくない。重いビルの扉の先に、静寂を売る店があることを知っている。
階段を上がり、引き戸を開ける。白木のカウンターが、温かい光の中に伸びていた。
「一人です」
そう告げるまでもなく、店主は端の席を顎で指す。この距離感がいい。
まずは地酒。広島の重たい純米酒を、冷やで。
突き出しと共に、メニューを眺める。
「猪鹿鳥(ちょかちょう)煮込み」
その文字に目が留まる。イノシシ、シカ、赤鶏。野生の脂が、この疲れを溶かしてくれる気がした。
煮込みが運ばれてくる。炭火で炙られたような、野性味のある香りが鼻を突く。
まずは猪から。噛みしめるほどに、山の力強さが舌に広がる。
シカは驚くほど柔らかく、赤鶏の旨味が全体を調和させている。
酒が進む。これだ。この濃い味が、今夜の独白にはふさわしい。
続いて「燻製盛り合わせ」。
サバ、明太子、チーズ。どれもが煙の魔法をかけられ、酒の最高のアテに昇華されている。
特に明太子の燻製は、粒の一つ一つに香りが染み込み、喉を通るたびに余韻が長く続く。
カウンター越しに、店主が黙々と仕事をしている。
常連らしき客もいるが、誰もが自分のグラスと向き合っている。
この店に、余計な言葉は必要ない。
1時間半。4,800円。
店を出ると、夜風が少し冷たかった。
猪と煙の余韻。明日への活力。そう思えば、安いものだ。
| アクセス | 銀山町駅より徒歩5分 |
|---|---|
| 営業時間 | 18:00 – 23:00 (L.O. 22:00) |
| 定休日 | 日曜日 |
| 一人予算 | ¥4,000~¥4,999 |
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