18時半。八丁堀の交差点から少し歩くと、大きな暖簾を掲げた和菓子屋「島々」が現れる。
初めて訪れる者は、ここが「夜の目的地」だとは露ほども思うまい。
だが、その暖簾をくぐり、菓子が並ぶショーケースのさらに奥へと導かれるとき、日常は完全に遮断される。
「お一人様、カウンターへどうぞ」
通されたのは、わずか数席のカウンター。周囲は個室が中心だが、この「端」の席こそが、独りの男にとっては最も落ち着ける場所だ。
今夜はコースを。
「懐石料理の如く、お一人一皿ずつ」。このコンセプトが、独り飲みの気楽さと、食への真剣な対峙を両立させてくれる。
先付けから始まる瀬戸内の旬。広島の食材が、洗練された「郷土料理」へと昇華されている。
地穴子の白焼き。
皮目は香ばしく、身は驚くほど繊細だ。添えられた塩が、穴子の甘みを鋭く引き立てる。
これに合わせるのは、やはり広島の地酒。冷えたグラスの中で、酒が静かに揺れる。
続いて、広島産牡蠣の逸品。
大粒の身に閉じ込められた海の滋養が、口の中で弾ける。
一皿ごとに運ばれてくる「広島」の記憶。
誰かと語らう必要はない。料理と、自分と、そして静寂。
和菓子屋の奥という「結界」に守られたこの空間では、時間の流れさえも穏やかだ。
締めには、季節の炊き込みご飯。
ふわりと立ち上がる湯気が、今夜の満足を完璧なものにする。
1時間半。8,800円。
決して安くはない。だが、この「異世界感」と、徹底して独りの時間を尊重してくれるもてなし。
その代償としては、むしろ安いとさえ思える。
和菓子屋を抜け、表に出る。
喧騒の八丁堀が、少し遠い世界の出来事のように感じられた。
誰にも教えずに、自分だけの「奥の手」にしておきたい。そんな店だ。
| アクセス | 広電「八丁堀駅」より徒歩5分(和菓子屋「島々」の奥) |
|---|---|
| 営業時間 | 17:00 – 22:00 |
| 定休日 | 不定休(和菓子屋「島々」に準ずる) |
| 一人予算 | ¥8,000~¥9,999 |
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