八丁堀の交差点、人の波を掻き分けてビルに入る。
エレベーターを避けて、階段を二階へ。
扉を開けると、そこには街の喧騒を忘れさせる静寂が広がっていた。
カウンターはわずか四席。
それが、今の自分にはちょうどいい。
余計な干渉を拒む、この少し冷たい木の質感が心地いい。
名物・穴子の刺身
広島に来るたび、穴子は食べてきた。
だが、刺身で出す店はそう多くない。
運ばれてきたそれは、透き通るような白身に、繊細な包丁が入っていた。
醤油を軽くつけ、口に運ぶ。
……淡白な中に、力強い弾力。
噛むほどに、穴子の持つ純粋な旨味がじわじわと染み出す。
これを日本酒で追いかける。広島の地酒が、穴子の余韻をさらに深くする。
締めの逸品
「広島赤鶏のにゅうめん」で締めることにした。
九百円。鶏の出汁が優しく、疲れた胃に染み渡る。
炭水化物で腹を満たすのではなく、温かいスープで夜を閉じる感覚。
会計は七千円を少し超えた。
出張の経費では落ちないが、自分のための夜にはこれくらいの重さがちょうどいい。
納得して札を置き、店を出る。
表に出ると、夜の八丁堀はまだ賑やかだった。
だが、自分の中には、あの二階で手に入れた確かな静寂が残っている。
それで十分だ。
来週も、ひとりでふらっと入れる店を探しに行きます。