[広島駅]「ビールスタンド重富」。新幹線まで15分。黄金の液体で旅を「整える」。

バー

改札そばの聖域。注ぎの儀式を見つめる短い休息

広島駅1階、ekieキッチン。惣菜や土産物がひしめくエリアの入り口に、そのスタンドはある。新幹線改札からエスカレーターを下りてすぐ。新幹線まであと15分。このわずかな隙間時間をどう使うかで、今回の出張の読後感が決まる。

「ビールスタンド重富」。銀山町の本店は行列で知られるが、ここ駅ナカの店舗も常に数人の男たちが静かにグラスを傾けている。椅子はない。ただ、黄金の液体を喉に流し込むための最小限のスペースがあるだけだ。

カウンター越し、注ぎ手の動きに目を凝らす。昭和のサーバーから勢いよく注がれるビール。泡の厚み、液体の揺らぎ。その一連の動作には、もはや芸術に近い規律がある。今の自分に必要なのは、喉の渇きを癒やすこと以上に、この「整った」所作を眺める時間なのかもしれない。

「一度つぎ」の衝撃。雑味のない黄金が喉を抜ける

注文したのは「一度つぎ」。700円。店主の重富氏が提唱する、ビール本来の喉越しと爽快感を最大化させた注ぎ方だ。グラスを受け取ると、きめ細かな泡が蓋のように液体を守っている。肴はない。ここでは、ビールそのものが主役であり、完結した体験だ。

一口。喉を駆け抜ける感覚が、これまで飲んできたビールとは明らかに違う。雑味がなく、麦の香りが真っ直ぐに鼻を抜ける。冷たすぎず、だが体温を確実に奪っていく。仕事の報告、移動の疲れ。それらすべてが、この一杯の液体によって一時的に無効化される。

周囲の喧騒は相変わらずだ。だが、このスタンドのカウンターに肘をついている間だけは、自分だけの時間が流れている。二杯までの制限、20分以内の滞在。そのストイックなルールが、この体験をより純度の高いものにしている。

15分の完結。喉の余韻と共に、エスカレーターを上がる

滞在10分。700円。グラスは空になり、喉の奥には心地よい苦味だけが残っている。会計を済ませ、軽く会釈をしてスタンドを後にする。長居は無用。それがこの場所への、そして自分自身の旅への礼儀だ。

エスカレーターを上がり、再び改札の喧騒の中へ。だが、先ほどまで感じていた倦怠感は消えている。喉の奥に残る「重富の余韻」が、明日からの日常へと自分を押し戻してくれる。

新幹線がホームに入ってくる。席に座り、目を閉じる。今夜は、これでいい。広島の締めくくりに、これ以上の贅沢はない。

[店舗情報]
ビールスタンド重富 ekie
住所:広島県広島市南区松原町1-2 ekieキッチン 1F
営業時間:10:00 – 21:00 (L.O. 20:45)
定休日:ekieキッチンに準ずる
夜の平均予算:700円〜1,400円(2杯まで)
一人利用:立ち飲み(カウンター)あり
食べログ:https://tabelog.com/hiroshima/A3401/A340121/34026315/

筆者の独白:第1話 中年サラリーマンの魂の叫びはこちら
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