流川の喧騒を背に、電車通りを渡る。
わずかな距離だが、空気の密度が変わるのがわかる。
銀山町、そして胡町。
ここは、虚飾に満ちた会食を終えた男たちが、最後に自分を取り戻すために辿り着く「避難所」だ。
今夜は、誰の機嫌も伺わなくていい。
ただ一人のカウンターで、広島の夜を静かに閉じたい。
銀山町のビルの奥、静寂を買いに行く。
銀山町や胡町のビルには、表の看板からは想像もつかないような「静かな聖域」が潜んでいる。
まずは、永山(胡町)。
エレベーターを降りた瞬間に届く、出汁の香りと凛とした空気。白木のカウンターに座れば、さっきまでの喧騒が嘘のように遠のく。
そして、厨 朱竹(胡町)。
ここのカウンターの奥行きは、一人で座るために設計されたかのような安心感がある。大将との程よい距離感も、疲れ果てた夜にはありがたい。
広島の魚と地酒。ただ一人、本物と向き合う。
胃に優しいものを、しかし妥協のないものを。
そんな気分なら、なかたに(胡町)の穴子しゃぶしゃぶだ。
透き通る出汁に穴子をくぐらせる。その一瞬の動作に没入することが、何よりのリセットになる。
肉の弾力が恋しい夜は、一のや(銀山町)へ。
江田島軍鶏。噛み締めるたびに溢れる旨味と、選りすぐりの地酒。
「いい一日だった」と思えるのは、こういう店を独りで知っている時だ。
深夜3時。最後の一杯に自分を沈める。
もし、まだ眠りたくないのなら。
BAR 広島(胡町)の重いドアを開ければいい。
カクテルの冷たさと、バックバーに並ぶボトルの静かな光。
深夜3時まで、この街は一人の男を優しく放っておいてくれる。
今夜は、これでいい。
勘定を済ませ、表に出る。
銀山町の夜風は、どこか凛としていて心地よい。
明日もまた戦える。
そう思えるのは、広島の夜が一人客に優しいからだ。
今夜も、いい夜だった。