[エキニシ]「魚菜小町」。深夜二時、包丁の音と「七種」の刺身。

居酒屋

エキニシ。再開発の熱が届かない、低い天井の路地。
「魚菜小町」の店主と、少しだけ言葉を交わした。
一人で座る男が、何を求めてここに辿り着くのか。彼は多くを語らず、ただ目の前のまな板に集中していた。

1. 独り身に差し出された、七種の必然。

運ばれてきたのは、七種の刺身。
一人飲みでこれほどの種類を並めるのは、店側からすれば効率が悪い。
だが、一切れごとに違う食感を辿っていく作業は、一人の夜を退屈させない。
脂の乗り、身の締まり。それらを順番に確認していく。
この「確認」という行為こそが、今夜の主役だ。

2. 深夜二時の、静かな救済。

広島の海が、淡々と皿に乗る。
レモンを絞り、醤油を少し。
生か、焼きか。その選択に迷う必要はない。
店は深夜二時まで開いている。
「遅い時間でも、ゆっくりしていってほしい」
店主のその一言は、深夜の街を歩く男にとって、確かな重みを持っていた。

3. カウンターという名の、孤独の温度。

木のカウンター、包丁がまな板を叩く乾いた音。
隣の客との距離は、拳二つ分より少し広い。
過剰な干渉もなく、ただ旨い魚と向き合う時間が流れる。
エキニシの喧騒が遠くに聞こえるこの席は、一人の夜を閉じるには、ちょうどいい温度だった。