東京からの長い移動を終え、横川駅に降り立った。いつもの喧騒から逃れるように、北口の静かな路地へと歩を向ける。引き戸の向こうに、自分を閉じるための静寂があるはずだ。
大鉢が並ぶ白木カウンターの温もり
引き戸を開けると、お出汁の優しい香りが鼻腔をくすぐった。白木のカウンターには、その日に作られたおばんざいが大鉢に盛られて並んでいる。控えめな暖色の照明が、それらを艶やかに照らしていた。全12席の小さな空間。先客は静かにグラスを傾ける一人客が二人。過剰なBGMはなく、ただ包丁がまな板を叩く音と、静かな話し声だけが流れている。この静寂が、一日中会議で摩耗した心にじわりと染み込んでいくようだった。カウンターの端、案内された席に腰を下ろす。滑らかな木の質感が、手のひらから緊張を吸い取っていく。
賀茂金秀と、おばんざい三種盛りの身体性
まずは「賀茂金秀」を冷やで頼み、大鉢の中から「おばんざい三種盛り(1,000円)」をいただく。茄子のオランダ煮、おから、そして小松菜のお浸し。どれも丁寧な手仕事が施されている。茄子を口に運ぶと、じゅわりと溢れるお出汁 of 旨味と、油のコクが舌を満たした。すかさず地酒を流し込む。すっきりとした酸と米の旨味が、お出汁の優しさを引き立ててくれる。追加で頼んだ「出汁巻き玉子(650円)」。箸を入れると、たまらずお出汁が染み出してきた。熱々の塊を頬張る。身体の奥が、じんわりと温まっていく。ポテトサラダを追加し、冷酒を重ねる。自分だけのペースで、ただ淡々と味わう。
三千円台の安堵と、夜風に溶ける独白
1時間半。酒を二合とおばんざい、お会計は3,800円。三千円台。この立地と味なら、賢い選択をしたと言える。五千円でお釣りが来る。出張の余韻としては、これ以上ない静寂だ。領収書は受け取らず、財布から札を出す。経費で落とす必要はない。これは自分のための夜だ。
店を出ると、横川の少しひんやりとした夜風が頬を撫でた。ビジネスホテルの無機質なシーツが待つ部屋へ歩きながら、胸の奥の澱が少しだけ軽くなっているのを感じた。明日もまた、なんとかやっていける。そう静かに独白し、重い革靴を進めた。
| アクセス | 横川駅北口より徒歩1分 |
|---|---|
| 営業時間 | 17:00 – 22:00 |
| 定休日 | 水曜日、木曜日 |
| 一人予算 | 3,000円〜4,000円 |