[横川]「野武士」。昭和の薫香が漂うカウンター、広島赤鶏と地酒に深く潜る夜。

横川

出張の夜、重いカバンを肩にかけ直して横川駅を背にする。ネオンが滲む北口の路地で、ふと目に留まった「野武士」の看板。昭和からこの街の夜を照らし続けてきたというその佇まいに、吸い寄せられるように暖簾をくぐった。

昭和の薫香が漂う16席の長大なカウンター

引き戸を引くと、炭火の香ばしい匂いと、焼き鳥の爆ぜる音が身体を包んだ。1980年の創業から、この場所で幾多 of サラリーマンを見送ってきたのだろう。飴色に磨かれた長大なカウンター席が16席、奥へと伸びている。テーブル席からは楽しげな声が聞こえるが、カウンターの端に座れば、そこは焼き手の職人と自分だけの静かな対峙空間だ。煤けた天井と控えめな照明が、不思議と心を落ち着かせる。まずはサッポロの赤星を頼み、冷えたグラスを満たす。一日の終わりに、ただ煙の向こうを眺める時間が愛おしい。

広島赤鶏の力強い弾力と、炭火の熱量

黒板の品書きから、産地直送の「広島赤鶏」を使ったねぎま(250円)と、皮(200円)をタレで頼む。目の前の焼き台から、時折火柱が上がり、香ばしい煙が流れていく。皿に置かれたねぎまを一口。炭火で一気に焼き上げられた赤鶏は、驚くほど力強い弾力があり、噛むほどに濃密な旨味が溢れ出てくる。すかさず赤星を流し込む。続いて、甘みを抑えたタレが染みた皮。表面はパリッと香ばしく、中は驚くほどジューシーだ。地酒「雨後の月」に切り替え、一本、また一本と串を重ねる。無駄な飾りを排した、炭と肉だけの純粋な熱量が、五感に響く。

三千円台の納得と、ネオンが揺れる帰路

1時間。お腹を満たし、地酒とビールを楽しんで、お会計は3,400円。三千円台。五千円でお釣りが来る、この納得感。出張の余韻としては、これ以上ない充足だ。会社の名刺も、役職という鎧も、この炭火の煙の前では何の意味も持たない。ただの一個体として、妥当に胃袋を満たした満足感だけが残る。
店を出ると、夜風が炭火の熱を帯びた身体に心地よい。駅ビルの明かりを遠くに眺めながら、重いリーガルの靴音を響かせて歩く。明日もまた、この街で戦える気がした。

アクセス 横川駅より徒歩1分
営業時間 17:00 – 23:30 (木・日・祝は22:30まで)
定休日 不定休
一人予算 3,000円〜4,000円

筆者の独白:第1話 中年サラリーマンの魂の叫びはこちら
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