[銀山町]「権兵衛」。一人、味噌おでんと呉の地酒で出張の夜を閉じる。

おでん

今回の出張は長かった。トラブル処理に追われ、コンビニ弁当で済ます夜が続いた。
最終日の夜くらい、広島で誰にも邪魔されず、いいものを食べたい。
時計は20時を回っている。銀山町の、少し騒がしいネオンの隙間を縫うように歩く。

静寂への入り口:風俗街の奥に潜む50年の重み

銀山町の電停から徒歩5分。呼び込みの声が遠ざかる路地の角に、その店はある。
「権兵衛」の文字が刻まれた、古びた暖簾。ここだけ空気が止まっているようだ。
重い扉を開けると、BGMより先に、低く煮立つおでん鍋の湯気が視界を覆った。
客の話し声は低く、遠い。

ガラス戸越しに見えたカウンター。端の席に、一人でグラスを傾けている男がいた。
それで十分だった。一人なら迷わずカウンターの端へ滑り込む。
目の前には、茶褐色に染まった大きな鍋が鎮座している。この店は、大丈夫だ。

実食:味噌の深みと、呉の地酒が洗う余韻

まずは呉の地酒「宝剣」をぬる燗で。合わせるのは、この店の主役である味噌おでんだ。
大根、豆腐、そして牛すじ。広島では珍しい、八丁味噌を思わせる濃厚な色が食欲をそそる。
箸を入れると、大根は芯まで均一に染まり、驚くほど柔らかい。
口に運べば、見た目の濃さを裏切る、滋味深い出汁の旨味が広がる。身体感覚が、ゆっくりと仕事モードから解放されていくのがわかる。

「小イワシの刺身」も追加した。角が立ち、皿の上で冷たく光っている。
醤油を弾く脂が、舌の上で静かに解けた。派手さはない。だが、このシンプルさが疲れた夜には正しい。
スモーキーな味噌の余韻を、キレのある宝剣が静かに洗い流してくれる。
ここは、誰の予定にも縛られない、自分だけの聖域だ。

締め:夜風と、確かな満足感

1時間半。4,500円。
おでんの湯気の向こう側で、静かに更けていく広島の夜を楽しんだ。
表に出ると、銀山町の夜風が少し冷たかった。だが、腹の底にはおでんの熱がしっかりと残っている。

会計を済ませ、店を出る。駅までは少し歩くが、ちょうどいい酔い覚ましだ。
新幹線の座席はもう取ってある。あとはシートに身を沈めれば、東京までは眠るだけだ。
来週も、またひとりで来ればいい。そう思える店が、広島にはまだある。

来週も、ひとりでふらっと入れる店を探しに行きます。

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