金曜、21時。
薬研堀の喧騒は、今の自分には少しばかり騒がしすぎる。
会食の後の、どこか落ち着かない高揚感をリセットしたかった。
ビジネスホテルの硬い枕に頭を沈める前に、もう一杯だけ、広島の「手触り」が欲しかった。
ふらりと足が向いたのは、路地裏に静かに佇む「紅緒」。
古民家を思わせるその門構えは、一見の客を拒むような鋭さはないが、浮ついた者を寄せ付けない落ち着きがある。
暖簾をくぐると、使い込まれた木のカウンターが目に飛び込んできた。
先客は一人。文庫本を片手に、静かに杯を重ねている。
それで十分だった。ここなら、自分の呼吸を整えられる。
「あなごの生ちり」
品書きの筆文字が、今の気分にぴたりと重なった。
広島で穴子といえば昼の飯が相場だが、夜、酒の肴として対峙する穴子はまた別の表情を見せる。
朝締めの穴子の刺身は、透き通るような白。
ポン酢に軽く浸し、口へ運ぶ。
淡白な中にある、微かな弾力と海の記憶。
それが、広島の地酒の柔らかな甘みを引き立てる。
派手さはない。だが、芯がある。
続いて「ホルモン天」。
広島の夜の定番を、この静寂の中で噛み締める。
衣のサクリとした音。溢れる脂の熱。
それを冷えたビールで流し込む。
仕事の些末な悩みなど、どうでもよくなってくるから不思議だ。
1時間。会計は四千円台。
この立地と味なら、賢い選択をしたと言える。
表に出ると、夜風が少し冷たかった。
ネオンの海を背に、ホテルへの道を歩く。
明日の朝は、少しだけ体が軽い気がした。
来週も、ひとりでふらっと入れる店を探しに行きます。
| アクセス | 広電本線「胡町」電停より徒歩3分 |
|---|---|
| 営業時間 | 18:00〜(詳細は要確認) |
| 定休日 | 日曜 |
| 一人予算 | 3,500円〜5,000円 |