18時過ぎの広島駅。
土産物屋を抜けた先の、あの熱を帯びた喧騒。
修学旅行生の声、観光客の笑い、お好み焼きのソースが焦げる強烈な匂い。
今の自分には、あの賑やかさは少し重すぎる。
新幹線まで、あと1時間。
この「余白」を埋めるのは、駅ビルの中ではない。
人混みを背に、JPビル側の静寂へと足を向ける。
1時間の猶予で、広島の夜を、自分のペースで閉じたい。それだけだ。
喧騒の隣、カウンターに流れる「凪」の時間
広島駅南口から西へ数分。
JPビルディングの1階、少し開けた場所に『アテニヨル』はある。
駅直結という利便性と引き換えに、失われがちな「情緒」が、ここには確かに残っている。
目に入るのは、整然と並んだカウンター。
一人、また一人と、男たちが静かにグラスを傾けている。
隣との距離は、拳二つ分。この絶妙な隔たりが、出張者の夜を安堵させる。
実感を、一口ずつ。地酒と魚の「答え合わせ」
ここでの正解は、あれこれ迷うことではない。
「酒肴日和セット」のような、店が用意したアテの数々に身を委ねるのがいい。
地元の日本酒、例えば『亀齢』の辛口が、乾いた喉を刺す。
刺身の角が立ち、炭火で炙られた肴の香りが鼻を抜ける。
1時間という制約の中で、広島の季節を、一点に凝縮して味わう。
観光地の味ではない、職人の矜持が、舌の上で静かに主張する。
改札へ。1時間の満足を連れて、日常へ戻る
あるいは、エキニシまで足を伸ばし『魚菜小町』のL字カウンターで、店主の包丁捌きを眺めるのもいい。
あるいは、的場町まで歩き『仕事人』の重厚な空気の中で、自分を取り戻すのもいい。
時計を見る。新幹線まであと20分。
会計を済ませ、夜風に当たると、火照った体が少しだけ軽くなる。
改札へと向かう足取りは、来た時よりも、どこか確かなものに変わっている。
さて、帰るとするか。
今回紹介した「新幹線待ち」の聖域
- 酒肴日和 アテニヨル 広島JPビルディング店
駅徒歩1分。炉端焼きと地酒。隙のないカウンター。 - 魚菜小町(エキニシ)
駅徒歩3分。鮮度抜群の刺身。深夜の静寂。 - 仕事人(的場町)
駅徒歩5分。的場町の奥に潜む、男たちの聖域。