日曜、17時。
翌朝一番の会議に備え、新幹線を広島駅で降りる。
ビジネスホテルにチェックインし、ユニットバスの乾燥した鏡に自分の疲れた顔を映す。
「今夜はどこで飲もうか」
そんな軽い気持ちでスマホを開き、愕然とする。
広島の一人飲みを支える個人経営の割烹や、静寂に満ちた居酒屋の多くは、日曜日が定休日だ。
駅ビルは観光客で溢れ返り、お好み焼きのソースの焦げる匂いと、大声を上げる団体の熱気に満ちている。
ビジネスホテルの近くのコンビニで、缶ビールと味気ない惣菜を買い、味気ない蛍光灯の下でテレビを眺めて過ごすのか——。
否。前乗りの夜だからこそ、妥当に、静かに、一人の時間を閉じたい。
そんな日曜の孤独な男を救う、日曜営業のカウンターがそこにある。
1. 酒肴日和 アテニヨル 広島JPビルディング店(広島駅南口)
人混みで溢れる駅ビルを避け、JPビルディングの1階へ逃げ込む。
ここは年中無休、15時から暖簾を掲げている。
洗練されたオープンカウンター。適度な間隔。
ここで頼むべきは「酒肴5種盛り」だ。
職人の手の込んだ肴を、辛口の亀齢が洗い流していく。
新幹線の発車音が響く駅の隣で、自分だけが静寂に浸る。この乖離が、前乗りの夜を優雅に変えてくれる。
2. のんびりな居酒屋 にじいろ(流川)
流川の喧騒を一本外れた、細い路地の奥。
ビル2階に灯る、にじいろの看板は、日曜日の静かな流川で頼りになる避難所だ。
大将の低く柔らかな声に迎えられ、カウンターの端に腰を下ろす。
ここで箸を伸ばすべきは「和牛タンしゃぶ」だ。
丁寧に引かれた出汁にタンを潜らせ、冷酒を口に含む。
胃の腑が温まるにつれ、明日への緊張が静かにほどけていく。
3. かど乃おすぎ(流川・薬研堀)
日曜の薬研堀。
看板は寂しげだが、この石本ビル1Fには日本酒好きを唸らせる聖域が生きている。
ここは席のみの予約でも、最初に繊細な「小鉢盛り」と「お造り盛り」が供されるルールだ。
店主の妥協なき目利きによる刺身を、選りすぐりの日本酒が静かに迎える。
一人の夜にこれほどの贅沢を。日曜の前乗りだからこそ、この静かな時間が深く体に染み渡る。
明日の闘いに向け、静かに目を閉じる準備を整える
会計を済ませ、店を出る。
心地よい酔いと、極上の肴に満たされた胃袋。
日曜日の静まり返った広島の夜風が、火照った顔に心地よい。
コンビニで無機質な水と明日の朝食を買い、ホテルのエレベーターの鏡で、自分の顔をもう一度見る。
来た時よりも、どこか確かな男の顔に戻っている。
明日への自負を胸に、今夜は、これでいい。
誰も自分の名を知らないこの街で、もう一つの逃げ道を確保するのも、悪くない。
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