[エキニシ]「うしお お料理とそば」。カウンター6席。一人、鰹出汁で出張の夜を閉じる。

割烹・小料理

エキニシの路地を一本入る。騒がしい立ち飲みやチェーン店の明かりが途切れた先に、その店はあった。

ガラス戸の向こう、6席だけのカウンター。白い暖簾には「お料理とそば」の文字。覗き込むと、40代半ばの男が一人、酒を静かに傾けている。これで決まった。

カウンター6席。エキニシの隠れ家。

ドアを開けると、鰹節の香りが先に出迎えた。カウンターは一枚板の欅。左端に空席がある。座る。店主が無言でおしぼりを差し出す。客は先客の一人だけ。互いに干渉しない空気が、カウンターの上に敷かれている。

店内は調理台と6席のカウンターで全てだ。冷蔵ケースの中には、瀬戸内の魚が並ぶ。壁には今日のメニューが墨で書かれている。BGMはない。あるのは包丁の音と、鰹節の削る音だけ。この静寂が、出張で擦れた神経にはちょうどいい。

エキニシには焼き鳥、お好み焼き、立ち飲み——様々な店が並ぶ。だが、18時から22時まで、カウンターだけで6人を受け入れるこの店は、少し違う。一人で来るための店だ。店主もそれを分かっている。余計な話は振らない。必要な時にだけ、料理の説明が短く添えられる。それだけ。

お造り、そして〆の蕎麦。

日本酒を頼んだ。広島の地酒、銘柄は「賀茂泉」。冷酒。グラスが置かれて、注がれるまでの間も、言葉はない。

最初に出てきたのは、お造り。鯛と、この日は蛸だった。蛸の足が、噛むごとに海の旨味を静かに放つ。わさびは本山葵。醤油は濃すぎず、魚の味を消さない。

二品目は、小鉢。茄子の含め煮。出汁が染みている。箸で割ると、中から熱い汁が滲み出る。出張の晩に、こういう「手間をかけたもの」を食べると、日常が少しだけリセットされる気がする。

そして、〆の蕎麦。細打ち。つゆは鰹出汁が立っている。啜る音だけがカウンターに響く。ああ、そうだよな。出張の夜の締めは、これだ。

五千円強。納得の出張代。

会計は5,800円。酒を二合、お造りに小鉢、そして蕎麦。出張の経費では落ちない。だが、自分のための夜の重さとしては、これくらいがちょうどいい。

カウンターを出る。外の空気が少し冷たい。エキニシの喧騒が、まだ続いている。新幹線まではまだ時間がある。コンビニで水を買って、ホテルに戻ろう。

来月もまた来る。その時も一人で、この6席のどこかに座る。

アクセス 広島駅から徒歩5分(エキニシエリア)
営業時間 18:00〜22:00(L.O. 21:00)
定休日 月曜
一人予算 5,000〜6,000円

筆者の独白:第1話 中年サラリーマンの魂の叫びはこちら
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