中心部の賑わいから少しだけ離れた、大手町の夜。
市役所近くの静かな通りに、その店はある。
「お好み焼き」という看板に抱く、あの特有の騒がしさ。
ここでは、そんなノイズすらも心地よい静寂に塗り替えられる。
大人のための「避難所」。白木のカウンターで息を吐く。
店内へ足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは整然と手入れされた鉄板とカウンターだ。
グループ客の笑い声も、ここまでは届かない。
一人で座ることに何の躊躇もいらない。
店主の所作は、まるで一つの儀式を見ているかのように静かで、無駄がない。
今日一日、すり減らした自分を、このカウンターが優しく受け止めてくれる。
ウニホーレン、地酒。一品の重みを噛み締める。
まずは広島の名物、ウニホーレン。
鉄板の熱で火を通されたほうれん草と、ウニの濃厚な旨味。
これを、よく冷えた地酒で流し込む。
お好み焼き屋という枠を超えた、上質な鉄板焼きの時間が流れる。
締めに焼いてもらう一枚は、どこまでも丁寧に重ねられ、ソースの香りが思考を心地よく奪っていく。
観光客の行列に並んで食べるお好み焼きとは、明らかに違う「自分だけの価値」がここにはある。
今夜は、これでいい。
一時間半。五千円台。
店を出ると、夜風が大手町の街路樹を揺らしていた。
派手さはいらない。ただ、納得のいくものを、静かに。
明日もまた、広島の空気を胸いっぱいに吸い込んで歩き出せる。
今夜も、いい夜だった。
お好み焼き・鉄板焼き 蔵屋 本店
広島県広島市中区大手町3-8-4 1F
営業時間:11:30 – 14:00 / 17:00 – 23:30
定休日:日曜日
食べログで確認する