静寂の値段
昨夜は接待だった。誰かのために飲む酒は、もう十分だ。
今夜は自分のペースで、自分のために飲む。
流川のメインストリートは、これからピークを迎える賑やかさだ。
観光客や団体客を避けるように、雑居ビルの奥へと進む。
重厚な扉の奥、7席の特等席
控えめな表札が掛かる重厚な扉。
一見客、しかも一人で開けるには少し勇気がいる。
だが、中に入ると外の喧騒が嘘のように消えた。
全21席の多くは個室のようだが、私の目当ては白木の美しいカウンター。
わずか7席。先客はスーツ姿の男が一人、静かにグラスを傾けている。
この店は大丈夫だ。案内された端の席に腰を下ろす。
炭火が爆ぜる音と、赤身の質量
目の前には紀州備長炭の焼き台。
炭が低く爆ぜる音だけが、心地よいBGMだ。
まずは「特撰牛イチボたたき(2,600円)」を頼む。
表面だけをさっと炙った肉厚のイチボ。冷酒を含み、肉を放り込む。
赤身の強い旨味と、ほんのり香る炭の匂いが鼻を抜ける。
求めていたのは、この質量だ。
続いて「厳選牛ヒレステーキ(5,500円)」。
じっくりと火を入れられたヒレ肉は、ナイフを入れると驚くほど柔らかい。
噛むたびに溢れる肉汁が、出張で疲れ切った身体の隅々まで染み渡っていく。
誰とも話さず、ただ目の前の肉と酒に集中する。贅沢な沈黙だ。
来週も、ひとりでふらっと入れる店を探しに行きます。
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